令和6年2月に行われた授業の最終報告会を取材しました。
この授業では、障がい者の就労施設でのグッズづくりやカフェの改装案について企画提案を行うべく、4人×2チームが奮闘。
各チームのリーダーとして活動した2人からお話を聞きました。
授業を履修した学生さん
応用生物科学部 生産環境科学課程 1年
教育学部 学校教育講座 心理学コース 1年
【授業の概要】
岐阜大学の全学共通教育/教養科目
対象学年:(主に)1年生
対象となる学部:全学部
授業のミッション:岐阜県内の企業や自治体等から課題の提示を受けて、フィールドワークや文献調査、そしてインターネットでの情報収集を行いながら、グループでアイデアを出し合い、依頼者の前でプレゼンを行う。
受講学生数:8人
実習先:一般社団法人サステイナブル・サポート(岐阜市)
担当教員:白村 直也先生(岐阜大学 教育推進・学生支援機構 准教授)
15コマの中で学生目線を活かした提案を練り上げる
令和6年2月29日、岐阜大学が岐阜市の街中に構える「地域ラボ・岐阜」にて授業の最終報告会が行われました。4人×2グループで市内事業所への提案をまとめ、中間報告会で出た質問・意見についても改善点として盛り込み、発表。事業所の方からは、実際の商品化も踏まえて講評がありました。
回 | 授業の内容 |
---|---|
1 | 課題に取り組むための一連の方法論について学ぶ |
2~6 | グループ活動 |
7 | 中間報告会(企業・団体の担当者に来ていただき報告し、コメントをもらう) |
8~12 | グループ活動 |
13 | 最終報告会(企業・自治体への最終プレゼンテーションを行い、評価してもらう) |
14~15 | 全体の振り返りと自己の個性・適性を考える |
(蔵のある町屋の宿《帰蝶》)
岐阜市玉井町にある1棟貸切タイプの宿泊施設で、一般企業での就労が困難な方が就労訓練を行う施設。今回は障がい者の方が制作し、宿泊施設にて販売するバスボムについて、材料や作り方、概算などについて提案をまとめました。
(忍者ねこカフェ「猫影」)
岐阜市岩地にある猫カフェで、障がいのある方が、一般企業への就職やA型事業所等へのステップアップを目指し、保護猫の飼育・譲渡活動や、カフェの運営業務に携わる事業所。カフェ内で販売するグッズの制作と、施設の改装について提案をまとめました。
「岐阜の企業や団体との協業」―早いうちから参加してみたい
M.K.さん はい、必修ではないですね。将来岐阜で働くことを考えて、「岐阜の企業や団体と協力しながら課題に取り組む」という授業に早いうちから参加しておいたら良いかもしれないと思ったからです。
それから、岐阜大学には「次世代地域リーダー育成プログラム」という取り組みがあり、その中の「環境リーダーコース」を選んでいて、ちょうどインターンシップの授業を取らないといけなかったので、一石二鳥だなということで履修しました。
N.S.さん 僕はもともと教育学部で、先生になるか、心理学コースなので公認心理士になる方向へ進むのかで迷っています。企業に勤めるという可能性は他の人よりは低いかなと思うのですが、企業の方とコネクションを持ちながら活動をするという内容に興味を持っていて、1年生の後期から取り組めると良いなと思い、最終的には興味本位で選びました。
それから、1年のうちにできるだけ授業を取り切っておきたいという意識もあって。この空き時間に取れる授業は…と探していて見つけた感じです。この授業は「岐阜学」という枠になりますね。
先生からは、授業自体では7年目だという説明がありましたが、過去に受講した先輩から話を聞くような時間はあったのですか?
M.K.さん 直接話を聞くとかはなかったですが、これまでの報告書を見ることはありましたね。
M.K.さん 最初の授業の際に横並びに8人が座っていたので、右4人と左4人とでグループを分けたという流れでした。
N.S.さん そこから「バスボムを作るプロジェクトと、猫カフェに今までよりも忍者感を出すための改装プロジェクトが2つあるけど、どっちがいい?」という話になって。自分では、どっちも面白そうだからどっちでもいいかな、と思っていました。
M.K.さん こちらのグループが猫影のほうをやりたいから、ということでテーマも決まりました。
チームで取り組む大変さは感じましたか?
M.K.さん 最初は”お互い本当に誰だろう”という感じでしたが、白村先生がグループワークの時間を取ってくださいました。
N.S.さん まずはアイスブレークということで、学部や学年など自己紹介をして、これからお互いお世話になります、という挨拶をしましたね。
M.K.さん その後、KJ法で障がい者について考えてみようというワークをしました。付箋にいろいろ書き出して貼っていくというものです。
N.S.さん 今回提案する内容をもとにして、最終的には障がい者の方が商品を作ったりされるので、まずは障がい者の方に関するイメージや働き方について、どう思うかをお互い出し合って、付箋に書きました。
そして、それを今度は分類していくんです。「これはお金に関するイメージだよね」、「これは障がい者の労働基準に関するイメージだよね」といったように、大体4つくらいのカテゴリにわけて、お互いのグループで発表し合いました。
M.K.さん 半年も経っていないですが、もう既に懐かしいですね。
文化人類学者である川喜田 二郎氏が考案した手法で、付箋等のカード状の紙に1つ1つのアイデアを書き、カテゴリに分けて図解し、整理していくものです。たくさんのアイデアを出し合うブレインストーミングにぴったりだとされています。
実際の現場を知るというのか、事業所の訪問もあったのですか?
M.K.さん 授業の3回目くらいに、授業外で出向きました。企画の参考に写真を撮ったりしたのですが、猫カフェの内装を担当するチームだったので、猫ちゃんがいる~と思いつつ、どういうことができるのかという部分に特に気を付けながら見てきました。
N.S.さん 僕のチームは皆で日にちが合わなかったので、2人ずつで訪問しました。新しい施設なので綺麗なオフィスだなと思いながら、いろいろ見学させてもらいました。
N.S.さん もともといたアルバイト先に障がい者の方がいらっしゃって、どんな感じなのかを知ってはいました。そんなこともあり、授業でバスボムの作業を進めていく中で、「これ本当に障がい者の方作れるのかな?」と若干心配にはなったりもしていました。
製作手順を調べて実際にやってみると、手早くやらないとダマになっちゃったり崩れちゃったりするんです。なので、結構これ難しいんじゃ…?と。ただ、まずはバスボム自体の提案を完成させないといけないので、そこは一旦置いておいて進めました。
M.K.さん この授業の最初に白村先生がおっしゃっていたのが、障がい者の方もやりたいことがあって、頑張ってやっているということと、『不自由と不幸はイコールじゃない』ということで、それは印象に残っていますね。
それこそ周囲に障がいのある方がいらっしゃらないと、「就労移行事業所」という名称やA型、B型の違いなど、馴染みのない方も多いのではないかと思います。
N.S.さん 障がいと一言で言っても、いろいろな方がいらっしゃいますもんね。四肢がない方や、会話がすぐに返せない方など。逆に一個のことをずっとやっていることが得意な方もいらっしゃって。
15コマの中で試行錯誤を…ということですが、授業の時間は90分ですから、全然足りなかったんじゃないですか?
M.K.さん 足りなかったですね。電子レンジを使う作業もあったので、家でしかできないものもありましたね。
M.K.さん 最終的にグッズとしてはキャンドルと、市販品にオリジナルハンコで装飾するトートバッグ、ニードルフェルトで作るマスコットを提案したのですが、忍者と猫をモチーフにした施設ということで、忍者はカッコいいイメージ、猫は可愛いイメージで、それがなかなか折り合わないジレンマがあって、そこを解決するためにみんなでアイデアを出し合って試行錯誤して、というのが大変でしたね。
N.S.さん 僕のチームのほうは、バスボムの形がうまく出せないとか匂いがうまく出ないとか、どちらかというと化学的なところが問題になることが多かったです。学部的には専門外だし、どこまで追求するべきかも悩みながら試行錯誤を繰り返していました。とにかくまずは作ってみて、その失敗、反省点をもとに試行錯誤をしないといけないので…何もかも初めてで手探りで。そもそもどんな材料で作るのかも知らないし、というところからの出発だったので、最初の1個目がまず難しかったですね。
N.S.さん 一つ作ってみたら、新しい問題が出て、その問題に対応するタイプを作るとまた違う問題が出てきて、という感じでした。それもバスボムを作るだけでなく販売するので、作ったものを放置して乾燥させ、形を保っているかどうかを確認して、さらに溶かしてみて、という時間が毎度必要だったので、90分の中で試作して、それを翌週の授業の日に溶かして、の繰り返しだったのも大変でした。
M.K.さん 企画を考えながら、実際に商品化されるんだろうか?という不安ももちろんありましたし、障がい者の方が果たして作れるのか?という気がかりもずっとありましたね。
N.S.さん 作ったものが店頭に並ぶのか、などと考えながら進めましたね。それに、それをシンプルに買いたいかどうか、ということですね。
M.K.さん キャンドルは費用を計算すると、1個の売値が700~800円という設定になったので、もうちょっと値段が安くできれば、という気持ちはありましたね。可愛く作れていたとは思うので、あとは材料の大量仕入れ等で単価を下げられないかといった検討はもう少しできると思うのですが。
N.S.さん バスボムは…今は一人暮らしなので、お風呂じゃなくてシャワーだけ使っていて。でも実際に販売されたら買ってみたいとは思います。
N.S.さん “商品を開発する”というのが、すごく大変なんだなということは感じましたね。何度も試行錯誤を繰り返した上でやっと商品がお店に並んでいるんだ、という。”店頭にあるもの”というだけで、ある程度の質が担保されているということがそもそもすごいんだな、とよく分かりました。
M.K.さん 一般の企業や団体がこういう取り組みをしているということもそもそも知らなかったので、知ることができて良かったです。それに、今回は利益よりも、「障がい者の方が働く」ということがテーマになっているという授業の特徴もあって、いろんな企業・団体の在り方だったり、働き方があるんだなという気付きがありました。
また、障がい者の方については、「障害者雇用促進法」により法定雇用率というものが決められていますので、(2024年4月現在で)常時雇用する労働者が43.5人以上の事業所では、1人以上雇い入れる必要があったりします。高齢者の方の雇用等も含めて、どのような雇用を創出するのか、業務をどのように切り分けるのかといった目線は、将来どんな職場に勤めるにしても、必要になってくるかもしれませんね。
M.K.さん 今回の授業は、自分たちで何をするかをイチから考えて、実際にグッズも作って、先方への提案発表までして、という内容でした。ここまで全てを実践できる授業はなかなかないので、企画したことを進める力や人に伝える力、仲間同士でコミュニケーションを取る力を養えたなと思っています。
N.S.さん 授業が終わると、毎回先方担当者の方にLINEで報告をしていました。まず文字部分を作成して、それからその日に撮影した写真を並べて送っていたのですが、それが本当に難しかったですね。
M.K.さん ありましたね! 僕のほうはoutlookでのやり取りでしたが、慣れないので、毎回メールを作成しては、失礼がないかな?と何度もチェックをしていました。
電話口での対応や、メールでのお問い合わせに対してどこまで説明するべきか、なども迷ったりしますよ。
お二人にとって、この授業での一番の学びはどんなことですか?
M.K.さん 自分では3つあります。“仲介者”としての役割と、進める力と、伝える力ですね。今回はグループのリーダーをやらせてもらって、先方の方とはメールのやり取りをして。メールの仕方も勉強になりましたが、もともと敬語が苦手なので、そういう部分にも気を付けることができました。それに、みんなと協力して最後までやり切ることができたのが一番の成果かなと思います。
N.S.さん 僕はやはり商品開発の大変さと、M.K.さんと同じになってしまいますが、「仲介者として報告をする」という立ち位置で、渉外、外部の方と交渉をする力はついたかなと思っています。
N.S.さん 「伝わり切っていないな」と感じた時に、メールの文面で「それは違いますよ」ということを入れるとどうしても強く感じてしまうと思うので…「一応お断りはしていると思うのですが」とか「○○いたしかねます」とか、メールの中に目一杯、梱包材とか緩衝材を積むようなイメージでした。逆に、文面だから何とか伝えられたな、という場面もあったのですが。
M.K.さん 電話をしてみたこともあったのですが、営業時間内は先方もお忙しいし、授業が終わってからだと営業時間が終了してしまっていたりして。そういう部分も大変でしたね。
お二人は大学を卒業するまで、まだまだ時間があると思いますが、学生生活の中で今後の課題などは見つかりましたか?
M.K.さん 僕は社会人基礎力の向上を目指していきたいですね。基本的なところに気を付けていきたいです。
それから、今みたいに、自分の意見を話す時に言葉が思い浮かばないことも多いので、その辺の臨機応変さも身に付けたいです。そのためには、座学だけではなくて、今回のような機会に参加して、実践的な力を養っていかないといけないと思っています。
N.S.さん 僕は4年間で粘り強さとか、精神性を鍛えていかないとな、と感じています。今は結構くじけてしまう時もあるので、イヤなことがあっても投げ出さず最後までやり切るという部分を頑張りたいですね。
M.K.さん 学生のうちって投げ出せちゃうんですよね。でも学校を卒業したらもうそれは通用しないですもんね。
N.S.さん 考えないといけないんですけど、今はいろんな道があるんだ、ということを大学に入って知ってしまったので。高校の時は「大学に行ければ勝ちだ」みたいなイメージがあったのですが、大学に入ってから、大学内のいろんな人を見て、自由な時間も増えて、岐阜大学以外の人とも結構会うようになって…あぁいろんな人生があるんだな、とかいろんな生き方があるんだなということを肌で感じています。
M.K.さん 人生の自由度みたいなものは上がったように思いますよね。
N.S.さん やりたいことというか、イヤなことから絞っていくと良いんじゃないかとも思いますね。やりたいことって、ある程度で飽きませんか? でも、満員電車がイヤだなというのはそんなに変わらないんじゃないかと思ったりするので。
M.K.さん 地元で働きたいな、という思いはありますね。例えば、県庁だと県内の異動くらいかな?というイメージがあったり…あまり遠くへの転勤はちょっとイヤだなと今は思ったりしています。
実際に社会に出ると、先程出た「交渉」「渉外」という部分は特に必要になるので、今回の経験は役に立ちそうですね。
N.S.さん 実は…最初にものすごく期待されているなという空気をひしひしと感じてはいたのですが、実際に先方からたくさんの課題を挙げられて。これは15コマでとてもやり切れないと感じて、そこはきっぱり断ったという経緯がありました。「原価計算と質の担保まではやりますけど、これ以上はお受けしかねます」と。できないことをできると安請け合いするのも失礼なことなのかなと思ったので。
M.K.さん どこまでならできる、というのをはっきりさせる必要はありましたね。僕もきっぱり言うのは大事だなと感じました。
そんな点でも、大変な授業でしたね。
N.S.さん 「全学共通教育の教養科目」という枠の授業と、専門の授業とがあって、この枠はあくまで全共なのですが、本当に全共なのかな?!と途中で思いましたね。他の全共は座学+テストというものが多いので。
M.K.さん 後期で取った他の全共科目を合わせても、この1コマのほうが重いくらいの授業になりましたね。
N.S.さん 必修の授業並みの重さでしたね。
M.K.さん まだ必修もありますが、そもそも好きなだけ授業は取れますしね。
N.S.さん 取れるだけ取り切っておきたい、という気持ちもあって、前期で27単位くらい詰め込んだので、後期は少し楽になって、18単位くらいですね。でも後期のほうが、授業はそれぞれ少しずつ難しくなった感じですね。
M.K.さん こんな経験…そうそうできないですよね。
N.S.さん なかなかないよね。
M.K.さん 経験は自分でつかみに行くべきもの、ですもんね。
N.S.さん インターンシップはゼロ次面接だという言葉も聞きますし。
ぜひ頑張ってください。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!