成果報告

地域で「共に生きる」ために何ができる?――美濃加茂市で考える“地域福祉”

  • 学生の体験談
  • 学校事例紹介
掲載日:2023/10/27
2023年度掲載

日本福祉大学の学生が美濃加茂市で合宿をしながら地域の社会資源や福祉サービスについて知り、考え、発表した計4日間の課題解決型インターンシップ。
企画を突き詰めていく時間は、「地域で生きること」そのものを見つめ直す機会となりました。

事業内容:ボランティアや地域活動の推進、日常生活の困りごと等へのサポート
※社会福祉協議会は、地域福祉の推進を図ることを目的とする団体として、社会福祉法に基づき設置されている民間の非営利団体。
所在地:〈事務局〉美濃加茂市新池町3-4-1(総合福祉会館すこやかタウン美濃加茂内)

1泊2日のフィールドワーク+グループワーク+オンライン発表会

 今回取材させていただいたのは、日本福祉大学内で募集された4日間のプログラム。岐阜県美濃加茂市を舞台として、孤立や人口減少などの様々な社会課題に対して、地域の「つながり」、「支え合い」、「担い手」づくりを通じて解決できる地域共生社会の実現を目指す(社福)美濃加茂市社会福祉協議会の様々な活動を現地で見学し、課題解決につながるアイデアを提案する内容で、各学部から1~3年生11人が参加しました。企画・募集したのは、日本福祉大学の各キャンパスでキャリア系の授業も担当されている地域連携コーディネーターの星野さんです。

 参加した学生は事前に配られたワークブックを参考に、美濃加茂市の現状や社会福祉協議会について調べて予習。それを元に、自分が課題だと感じること等をまとめました。

「新しい社会資源を考えよう 社会参加のまちづくりデザイン」(全学年対象)
(社会福祉学部7人、健康科学部3人、経済学部1人/3年生6人、2年生2人、1年生3人)
実習日程:8月22~23日、28日、9月4日
事前各自・事前学習
…美濃加茂市の統計情報や実習先についての情報収集等について知る、地域の課題について考える
1日目美濃加茂市
生涯学習センター
・オリエンテーション
・フィールドワーク(地域活動への参加)
※「元禄荘」にて宿泊
2日目同センターほか・フィールドワーク(地域のまちづくり協議会、居場所作り施設、里山保全関係者の訪問)
・グループワーク(3グループに分かれて地域社会の資源を活かした活動を企画)
3日目日本福祉大学
東海キャンパス
・グループワーク
4日目・発表準備
・成果発表会(美濃加茂市社会福祉協議会のスタッフはオンラインで参加)
事前に配付されたワークブック
(写真提供:日本福祉大学 星野さん/以下同じ)

 普段はキャンパスも学部も異なるため、同じ大学といっても初対面の学生がほとんどの中、1泊2日のフィールドワークが行われました。初日は美濃加茂市内で行われた地域活動に参加し、地元の方とともに見守りマップを作成。2日目午前は地域の課題解決のために活動する3拠点を訪問。さらに2日目午後は、その学びを生涯学習センターに持ち寄り、情報共有を行いました。

社協スタッフからのオリエンテーション
地元の方たちとの活動
居場所作り施設への訪問

 グループに分かれての活動は、「最初に提案内容の『軸』を決めることが大切」とのアドバイスがあり、まずは3グループそれぞれでグループ名を考えることに。提案内容の方向性や活用したい社会資源等をもとに「サークルラジオ」、「みのかもならできるかも」、「ITO」と決まり、4日目に発表する提案の検討が始まりました。  それから少し日にちを置いた3日目、4日目の午前には、日本福祉大学の東海キャンパスで発表に向けた準備が行われ、4日目午後からは美濃加茂市社協とオンラインで結び、成果発表会が行われました。

フィールドワークで得られた学びをまとめて共有

企画で大切なのは、何より「自分がワクワクしているどうか」

 発表会では、情報をどう伝えるのかや市民が生きがいを持って暮らすためにできること、食を通じた異文化・多世代交流等、様々な視点から地域を盛り上げるためにあると良い仕組みづくりについて提案が発表されました。

 受入先となった美濃加茂市社会福祉協議会の地域福祉係長 長谷川さんからは、地元に住んでいて知っていてもなかなか思いつかないアイデアや、古くて新しいと感じる手段もあり、今後実際に取り入れられないか検討していきたいとの講評がありました。

 さらに、日本福祉大学の国際福祉開発学部の吉村 輝彦教授からは、地域福祉=地域づくりの視点はこれからに向けてとても大事なものであること、福祉の入口になるのは「楽しい/美味しい/おしゃれ/かっこいい」等で、提案している人自身がワクワクしているかどうか、自分が楽しいから皆と共有したいという気持ちが大切だという言葉がありました。

発表会が行われた東海キャンパス

 GICスタッフも発表会に同席させていただいたのですが、取材後に改めて「福祉」という言葉の意味を調べてみると、そもそも「しあわせ」や「豊かさ」を意味する言葉であり、すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念、とされていました。福祉という言葉から、社会的な弱者とされる方のためのサービスばかりを連想していましたが、決してそれだけではなく、そこで生きる人すべてを対象として考えられているのが「地域福祉」なのだということが分かりました。

参加した学生さん2人にインタビュー

日本福祉大学
健康科学部 福祉工学科 建築バリアフリー専修 3年
F.O.さん、I.Y.さん
今回のインターンシップに参加されたきっかけを教えてください。

F.O.さん:私はあまりインターンシップ等の活動に自分から積極的に参加したことがなく、授業で今回のお話を聞いてやってみたいなと思いました。それに街づくり、地域を良くするということに興味があったので、行ったことのない地域でしたが参加してみました。

I.Y.さん:僕はちょうど地元だったから、という感じですね。美濃加茂市のインターンシップだし行ってみようかなと。

美濃加茂市のイメージというと?

I.Y.さん:今回参加した他の学生には分かってもらえたかなと思うのですが、少し移動するだけで雰囲気が全然違うところが見られて、普段住んでいますが、割と飽きない町なのかなと思っています。今回は自分が住んでいるエリアとは違うところを訪問したので、エリアごとの違いも感じました。

参加する前に準備したことはありましたか?

F.O.さん:事前課題が出ていたので、まずは美濃加茂市の取り組み等を調べました。調べてみて分かったのは、地域を良くするために社協で行われている元々の取り組みがとても多いことです。それ以外の案を自分たちで出せるのかなという不安は少しありました。

I.Y.さん:僕も事前課題を進める中で、住んでいても知らないことがたくさん出てきました。今まで参加したことのある地域の活動も思い返しながら、調べたことと併せてまとめて、という感じですね。

プログラムの中で特に印象に残っていることはありますか?

I.Y.さん:美濃加茂市だからなのかは分からないのですが、新しい案にウェルカムな感じがして、自分でやってみたいことを相談したら取り入れてもらえそうな柔軟さがあるなと感じました。

F.O.さん:地域の方と話す機会が結構あり、中でも60代、70代の方と話すことが多くありました。普段は祖父や祖母などと話す時に、多少会話がかみ合わない思いをすることがあるのですが、皆さん考え方が若々しくて、そういう皆さんが集まるからこそ、新しい案を取り入れていこうという姿勢になるのかなと思いました。世代の違う方と話していることを意識することなく、とても楽しくお話しできました。

1日目の地域活動への参加は、結構遅い時間まで続いたと聞いています。

F.O.さん:遅い時間にもかかわらず、元気な方がとても多くて意欲的でしたね。皆でいろいろ考えることをここまでやっているんだなと新鮮でした。

I.Y.さん:地元の方たちが遅い時間に活動していることは知っていたので、自然に参加できたと思います。皆さんが良い街にしようという同じ方向を向いて活動をしているので、遅い時間でも集まれるのかなと感じます。

初対面の学生同士、考えを持ち寄って創り上げる

今回は学年も学部も様々な活動でしたが、何か感じたことはありますか?

F.O.さん:当日までメンバーの数も男女比も、それこそ学年や学部も分からず、「インターンシップと聞くからには3年生だけなのかな」とも勝手に思っていたので、びっくりはしました。グループワークでは学年が違うから話しにくいとかいったことも関係なく、それよりも話しやすさの差は性格の違いのほうが大きいのかなと感じたので、全然問題はありませんでした。

I.Y.さん:僕も当日までメンバー構成は知らなかったのですが、特段支障はありませんでしたね。やっぱり一つ共通のテーマがあるので、それに向かって考える、話すということで、むしろいろいろな学部の目線で案が出せてやりやすかったですね。今回は学部もバラバラで、知っている知識とか制度とかが違ったりするので、他学部同士だといろいろな案が出るので楽しかったです。

4日間の中で一番の学びはどんなことですか?

I.Y.さん:地域を良くすることに対して、あまり気負いしなくていいのかなということに気付けました。ラフな感じでもできるんだなと感じたことですね。

大げさなことでなくて、日頃の事から?

I.Y.さん:細かいことでも自分の意見を発信すればいいんじゃないか、という。

F.O.さん:今回のテーマからは離れてしまうかもしれないのですが、初対面の人といきなり1泊2日で、何も知らない状態から出会って、お風呂も一緒に入って一緒に部屋で宿泊して…という感じだったので、初対面の人とどうやってコミュニケーションを取っていったらいいのかとか、人との関わり方、例えばどういう話題を出せばいいのか…といったこともいろいろ考えました。

現地での1泊2日というのは短かったですか、それとも長かったですか?

F.O.さん:実際に行ってみると、いろいろなプログラムが詰め込まれていてやることもいっぱいあって。長かったような短かったような…本当に初めての人と過ごす時間としては長かったなとは思います。一緒に暮らすようなものですから。初対面なのにいろいろなものが見えてしまうという。

いきなり寮生活に放り込まれたような感じですよね。

I.Y.さん:僕は大学に入ってから、初対面の人と一緒に活動する機会が増えたので、あまり抵抗はなかったですね。

社会人になってからは、初対面の方とすぐに打ち解けるのも仕事のうち、となりそうですよね。
今からぜひ鍛えておいてください。
実習後に、もっと準備しておけば良かった!と感じたことはありますか?

I.Y.さん:福祉面の課題だけでなくて、地域が持っている課題、例えば耕作放棄地のこと等を、事前の段階から皆に共有できていたら、もう少しその方向でも考えを深めることができたのかなと思いました。地元に住んでいるからこそ見えてくるものもあるので、そこを事前にもっと活かせると良かったのかなと思います。

I.Y.さんがメンバーに共有した耕作放棄地の写真
身近なところに、実はいろいろな課題が転がっているんだということに気付けたんですね。

F.O.さん:自分が今学んでいる建築とか、街づくり系のことなど、「授業でこういうことを学んだからこういうふうに生かせるんじゃないかとか」というように考えられていたら、普段の学びを活かして意見が出せたのかなと思います。とっさにはなかなか出なくて、最終的に良い案になったなとは思うものの、もう少し個性が活かせたらよかったなとも思います。

インターンシップ=同じ目的・目標を共有しながら、意欲的に発言できる環境

普段からの学びとリンクさせるというのは、今後の課題になりそうですね。日頃からの訓練も必要だと思います。
当初、自分が持っていた目標は達成できましたか?

I.Y.さん:自分が住んでいるところを良くしようということをじっくり考えられましたし、今後どうすればいいのかということも分かったので、良かったです。

F.O.さん:私は周りに知り合いがいる状況だとあまり自分の考えが言えないところがあり、今回の実習の中で、周りが知らない人ばかりのほうが、積極的に意見が出せるんだなという自分への気づきがありました。
 周りから「しっかりして見える」と言ってもらえることも多いのですが、実際には、一人だけ意欲的に発言して、周りがそこまでやる気がなかったりすると私もやる気がしぼんでしまったり、「”真面目だな”と思われたくない」という思いもあったり、周りに合わせすぎてしまうこともあり、初めて会った人とのほうが発言はしやすいかもしれないと思いました。今回は皆が自分からインターンシップに参加していて、それぞれ意欲的に発言をしてくれるので、そういう面でもやりやすい環境だなと感じました。

一人だけ張り切っているとかではなく、皆で取り組めるのは良いところですよね。
 ちなみに、お2人とも3年生ということで、いよいよ就活、という感じでしょうか。

F.O.さん:授業等でも先生が「今年からはインターンシップが重視されることになったから早めに行っておくと良いよ」といった話をされていたので、今年の3年生は意識が高めじゃないかなと思います。

就活に向けて、自分の課題は見つかりましたか?

F.O.さん:街づくりにはもともと興味があったのですが、実際に起きている課題にふれて、それを解決しようと実際に地域の方や社協の方がやっている現場に参加できたことで、まだ提案をしただけで実現させたわけでもないのですが、これが本当に実現して、それで少しでも街が良くなったら、自分の自信にもつながるなということを感じました。すごくやり甲斐のある仕事だと思います。
 まだどんな仕事に就きたいのかは決めきれていないのですが、街づくりのような、地域を良くする仕事は楽しそうだなと感じました。

自分で考えて提案していく」というのはどんな仕事にも共通しているので、この経験も活かしながら、良い仕事・職場に巡り合えると良いですよね。

I.Y.さん:今まで、自分の傾向として「ハード面で解決しよう」という考え方に偏りがちなところがありました。今回、街づくりの課題を考えていくと、ハード面というよりはソフト面、制度や仕組みを活用するような部分が強いと感じたので、施設や設備、道具のようなハード面の整備だけではなくて、「今あるものを活かす仕組みを作ったら低コストだよね」といったソフト面でのフォローという考え方を身に付けていくのが課題なのかなと感じています。

これからインターンシップに参加する学生さんへのアドバイスや、後輩たちに向けてのメッセージがあればお願いします。

I.Y.さん:悩んだらやってみてよ、と思いますね。インターンシップについては、「これどうなんだろう」と考え込むよりは、それこそ二つ返事でどんどんやっていったら良いと思います。いろんなことに挑戦できるし、面白い経験もできます。少しでも興味が出たなら、そのまま参加してしまって良いように思います。飛び込んだら何かしら面白いことがあるし、誰かしら支えてくれる人もいるので。

F.O.さん:私も似ているのですが、普段から「何か動かなきゃ」、「夏休みは何かやらなきゃ」という気持ちがあっても、なかなか自分で探したり応募したり、動けない人って結構いると思います。周りでもそういう声を聞くのですが、応募すると決めて一歩踏み出してしまえば、あとはなるようになるというか、絶対良い方向に行きます。「やりたいけど自分で動けない」という人は、とにかく応募するところだけクリアすれば、あとは勝手に進んでいくので、まずはチャレンジしてみてほしいですね。

ちなみに、一番緊張するのは応募する時?それとも参加する直前?

F.O.さん:踏みとどまってしまいやすいのは応募の段階ですよね。それをクリアすれば、参加すること自体は決まるので。

確かに!大きな分かれ道ですね。
それから、今回は自己負担額が5,000円ということで募集された企画でしたが、金額について何か感じることはありますか?

※実際に参加する時点までに、学校からの助成等により1,000円になったそうです。

F.O.さん:参加を決める段階では負担額のことはあまり見ていませんでしたね。逆に負担額が少なすぎて、たくさん負担していただけているので頑張らないとという思いはありました。自己負担額が一万円を超えると少し考えるかもしれませんね。

I.Y.さん:僕もただ「美濃加茂だー!よし行こう!」という感じだったので金額はあまり見ませんでした。企業のインターンシップに行くにも、場合によっては交通費が片道1万円以上かかったり、交通費を支給してもらえたとしても自己負担が発生したりします。将来お金をもらう先を決めるための材料だと思っているので、あまり金額は気にしてないですね。

F.O.さん:インターンシップ先を考える時には、宿泊が必要な場合は自分で調べて予約して…というのが、金額面も含めて負担だなと感じることもあったので、そこを全部決めてもらえて、隣の県で近くて、というのが行きやすいなと感じたポイントだったかもしれないですね。

なるほど、自己負担は自己への投資とも言えますね
それに宿泊先が決まっていたり、いざという時頼れる講師の方がいるという安心感は大きいかもしれませんね。
今お話を聞いているのは9月ですから、お2人も、まだまだ幅広くいろいろな業界や職種を見てほしいなと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました
星野さん

星野さんからのコメント
今回の企画を通じて、学生たちが、こちらが想定していた以上の学びを得られた結果に、驚きと嬉しさを感じています。
インターンシップでは、「働く」を体験する内容が多いかとは思いますが、今回の企画では、「働く」だけはなく、自分たちが「地域」で「どう生きていくか」を考える機会にもなりました。
やりたいこと探しではなく、どう生きたいかから仕事を考える視点も、身についたのではないでしょうか。
受け入れていただいた美濃加茂市社会福祉協議会と美濃加茂市地域の皆様に、改めてお礼申し上げます。

長谷川さん

社会福祉法人 美濃加茂市社会福祉協議会 長谷川さんからのコメント
この度は、インターンシップにご参加いただき、ありがとうございました。
『課題解決型インターンシップ』として初めて学生の皆さんを受け入れさせていただきました。
実際に地域住民と一緒になって支援の必要な方の見守りマップの作成、生きづらさを抱えた方や地域福祉活動の実践者との交流等を通じて、地域が抱える福祉課題を感じ取ることができたかと思います。
学生の皆さんの真摯に取り組んでいる姿やインターンシップ最終日に福祉課題の解決案の素晴らしいプレゼンテーションをしていただき、私ども職員にとっても良い刺激となりました。
今回皆さんが経験されたことを、今後の就職活動に活かしていただけると有難いです。皆さんのご活躍を期待しております。