成果報告

『“競技”を通じて「設計に必要となる力」や「チームで働く力」を学べるプログラム』についてお聞きしました!

  • 受入事業所事例紹介
掲載日:2024/10/10
2024年度掲載

「設計職の職場体験って、何をすればいいんだろう?」というところから始まった受入計画。 手探りの中、社員研修の内容を再編してでき上がった実習は、遠方から参加する学生も登場する「先駆けプログラム」となりました。

事業内容:機械設計、電気電子設計、橋梁設計など設計全般
本社所在地:岐阜市茜部寺屋敷2-88

今回は取締役の小澤さん、総務部の座馬さんにお話を伺いました。
*GICが岐阜商工会議所の発行する「商工月報 10月号」に寄稿させていただくのに合わせ、事例紹介にご協力をいただきました。そのインタビューの様子をご紹介します。

写真提供:大進精工株式会社(以下同)

新聞紙で橋を作るプログラム?!

まずご覧いただきたいのは、大進精工㈱の令和6年度受入計画の「説明欄」です。

<実施内容>
・設計業界に関しての説明
・会社見学
・ペーパーブリッジコンテスト
・電気設計者体験
・先輩社員との座談会

ペーパーブリッジコンテスト(3日間)
新聞紙でできた橋の強度を競うグループワークです。
橋の強さは実際に強度解析ソフトを使用して確かめます。
※パックジュースを乗せて競います。乗った分だけ持ち帰りいただきます!

電気設計者体験(2日間)
電気設計の仕事体験です。
最初は信号の制御システムのプログラミングから始まり、最終的には弊社が開発した
物流搬送システム(膨大な数の荷物を地域ごとに自動で振り分ける自動システム)の設計までステップアップしていきます。
電気設計チームのベテラン社員・若手社員から設計内容のフィードバックを行います。

 後半の「電気設計者体験」は職場体験らしい雰囲気が漂いますが、注目したいのは前半3日間の「ペーパーブリッジコンテスト」。その気になる内容や、計画の経緯等についてお聞きしました。
 なお、大進精工㈱の事業内容は「設計全般」。例えば?とお聞きすると、「大手テーマパークのアトラクションやいろいろな街の音楽・文化ホール、物流装置などの設計を丸ごと引き受けることも多いのですが、守秘義務があって詳しくはなかなかお話しできないんです」とのこと。自分が携わった設計プランが、実際に建設され、人の役に立つというのは、大きな達成感を得られそうです。

何とも楽しそうなインターンシッププログラムですが、どんなことをきっかけに生まれたのでしょうか。

小澤さん:当社が(公社)日本技術士会に加盟していることから、「理系の学生を育成するためにインターンシップをやってみてはどうか」という話が出たのがきっかけです。15年以上前になるのか、まだインターンシップという言葉が今ほど広まっていない頃でした。“ボランティア感が強いのでは”という危惧も一部でありましたが、理系学生の採用につながる取り組みならやってみよう、という感じでした。

 ただ、最初は学生さんを受け入れるといっても、何をやって良いのかも分からない状態です。ひとまず「3日間はCAD講習、後半2日間は手書きの設計図をPCで清書する」という5日間のプログラムで始めたのですが、地道な作業が多く居眠りをする学生も出る始末で。そのうち、応募学生が集まらないようになり、これではいけない、と内容を大きく変更することになったのです。

そこで生まれたのがこのプログラムだったのですね。

小澤さん:もともと社員教育の中で実施していたものを、少しアレンジして取り入れてはどうかと考えました。それが「ペーパーブリッジコンテスト」です。技術派遣をする際の教育プログラムなど、自社で取り組んでいるものがいろいろあり、そのうちの一つとして実施していたものです。

パックジュースをどれだけ支えられるか、というゲーム性が強い点は、学生も頑張ろうという気持ちをかき立てられそうですね。

小澤さん:500mmの間隔に、新聞紙と木工用接着剤だけを渡して橋を架けてもらうのですが、本当に上手に作ると3~4kgを支えることもできるんです。支えられた重量分がそのまま賞品になるので、たくさんジュースをゲットして、笑顔で帰っていく学生さんもいますね。一方で、寸法を間違えるケースがあったり、「学校で橋梁の勉強をしているんです」と言っていた学生さんが、紙という素材に完敗したり。いろいろな学部の学生さんが、文理関係なく毎年挑戦してくれています。

新聞紙と木工用接着剤だけでどんな橋を作る?!

大切なのは「皆で相談する」こと

コーディネーターも「ド」がつく文系ですので、いきなりCADで設計、と言われるとその時点で「無理かな」と考えてしまいそうですが、このプログラムなら「つまりは工作? アイディア次第だし面白そう!」という好奇心で一点突破できそうな気がしてきます。
グループワークということですが、何人くらいのグループなのですか?

小澤さん:大体は1グループ3人ですね。まずはメンバーそれぞれでアイディアを考えてみて、それをグループで共有して検討し、それから作り始めるという段階を踏むわけですが、時間配分も気にしないといけません。さらにグループで制作したものを強度解析して、もう一度検討し直し、再挑戦します。

 この時に、「皆で相談する」というのが大事なんです。“設計の仕事”と一口に言っても、実際に図面を引く時間というのはあくまで一部分です。社内ではチームで仕事を請け負うのですが、「こんな構造が良いんじゃないか」というアイディアや、自分なりの意見をきちんと言葉にして、メンバーに伝えないといけないわけです。コミュニケーションの大切さも、実習を通じて感じてもらえたら良いなと思っています。

「仕事」というのは大抵、限られた時間の中でトライ&エラーを繰り返しながらよりものを形作っていくもので、そこにはメンバー同士の、お互いへの尊重も必須、ということですね。さらには使えるツールも限られているというシビアな状況ですから、そういう点でもこの3日間は、仕事の要素がギュッと詰まった模擬体験になっているわけですね。
参加された学生さんの感想はいかがですか。

座馬さん:やはり、楽しんでくれている学生さんが多いですね。グループワークで共に取り組む時間も多いので、実習を通して学生さん同士がどんどん仲良くなっていきますね。学年もあまり関係ないように思います。

さて、どこまで支えられるか…
指導担当として社員の方も協力してくださっていると思うのですが、社員の方の反応はいかがですか?

座馬さん:「あの学生さんには入社してもらえると嬉しいよね」といった言葉が飛び出すこともありますし、実習終了後にも、採用活動の状況に興味を持って、「今年は大変そうだけど、どう?」などと声をかけてくれる社員もいます。
 また、インターンシップに参加してくれた学生さんがその後入社してくれた場合には、「実習に参加していた子だよね!」と先輩として声をかけて、気にかけてくれるケースもありました。そういうつながりはありがたいですね。

社員の方も、自分が指導した学生さんが後輩として入社されたら、きっと嬉しいですよね。入社する方も、先輩から気にかけてもらえると安心して働けそうです。そこはやはり5日間という日数も大きいかもしれませんね。実習に参加した方で、実際に入社された方の定着率についてはいかがでしょう。

座馬さん:定着してもらえているケースがほとんどですね。仕事の取り組み方を理解してもらえているのが大きいと思います。先輩社員も優しくて、怒られることもまずありませんし。それに、中途採用の方よりも、新卒で入社された方のほうが定着率は高いですね。 女性社員も増えつつありますが、結婚や出産で辞職されることも少なく、復帰される方が多いです。

小澤さん:社長が女性ということも、ライフイベント等への理解度の高さに影響しているのだと思います。

それは心強いですね!
インターンシップを実施して感じる具体的な利点というのは、どのようなことがありますか?

小澤さん:現在はかなりの採用難の時代となりましたから、新卒採用では特に理系の学生さんと出会うことが難しくなってしまいました。理系の学生さんは大学3年生の前半にインターンシップとしていくつかの企業を体験し、その後、12月までには内定をもらえる方も増えている状況です。そんな中、「1社目」として出会える機会はとても貴重ですし、まっすぐな気持ちで実習に臨んでくれるのが本当に嬉しいですね。

 学生さんも、どうしても「年間休日が何日か」とか「初任給がいくらだ」とかの福利厚生、待遇に目がいってしまうことも多いと思いますが、それだけが働きやすさや居心地の良さを表しているわけではないと思います。その仕事のやりがいや、働きやすさを、社員の生の声なども通じて理解してもらえるのがインターンシップの良いところですね。

「大学3年生になったら就活だ」という意識の学生も増えているようです。

小澤さん:学生がインターンシップを就職活動だと思って動くことで、実質的な就職活動の期間がどんどん長くなっている、という現状は決して良いとは言えないのですが、中小企業にとっては、待っていても何にもならないわけです。インターンシップは手間がかかりますが、手間をかけただけのこともあると感じています。中には、実習内容に興味を持って、自費で宿泊して参加してくれる学生さんもいます。これまでに来てくれた学生さんで、一番遠くは北海道からでした。「宿泊費や遠方からの交通費は出せないけど…」と一応確認しましたが、それでも行きます!と答えてくれて。そういう学生さんに出会えるのは嬉しいですね。

会社の雰囲気がダイレクトに伝わるのがインターンシップ

5日間の実習を実施するメリットというのは、いかがですか?

小澤さん:今は5日間以上で、一定の条件を満たした「インターンシップ」であれば、成果を採用活動に活かせるということになっています。5日間も一緒に過ごせば、学生さんそれぞれの「人となり」がよく分かりますから、「もし入社試験を受けてくれるなら一次はパスだよ」という判断になるのも自然だなと思います。
 一方で、学生には会社の雰囲気がよく伝わるわけですから、もし風通しが悪いとか、ギスギスしているような状況だと、「ちょっと行きたくないな」と思われてしまうだろうと思うんですよね。

強度解析をして、もっと強固な橋に再挑戦!
GICから企業様にご説明する場合も、「諸刃の剣」という言葉を使うことがあります。

小澤さん:当社でも、やっぱり風通しが良くて働きやすい会社でないと、という意識は常にありますね。

これからインターンシップを始めたい、という事業所の方にアドバイスはありますか?

小澤さん:一番大変なのは受入のプログラムを作ることだと思いますから、そこは岐阜県インターンシップ推進協議会に相談されると良いんじゃないでしょうか、と思いますよね。あとは他社の事例も参考にしてみるのも良いと思います。
 最初の頃の経験から言えば、単調な作業だけになってしまうとか、学生が時間を持て余すような内容だったり、あるいは学生を放置してしまうようなスケジュールはちょっと、ということになりますね。指導担当の社員を巻き込むことももちろん大事ですし。

 学生さんに「他の設計系の会社ではどんな実習をやったの?」と聞くこともあります。「模擬体験」と一口に言っても、あまりに仕事の内容と離れすぎていると業界や企業の理解は進まないだろうと感じます。それではもったいないので、業務とかけ離れた楽しいものを持ってくるといった作り方よりは、新入社員研修やその他の社員研修のメニューから抜粋するほうが、無理なく取り組めるのではないかと思います。

なるほど、それだと学生にとっては、社員となってからの教育体制が充実していることも分かりますからね。そういう意味でも、まずは社内の体制を整えるということは大切なのですね。
今回は、貴重なお話をありがとうございました!