「企業としての事業内容や雰囲気は分かってきましたが、働く上でのリアルを知りたいです」
という学生さんの声から企画が始まった「オーダーメイドインターンシップ」。
“総合建設業”という強みをフルに発揮して実施する5日間の実習、その仕掛け人にお話を聞きました。
事業内容:住宅・建築・土木工事の設計、施工、管理、宅地建物取引
本社所在地:岐阜市六条南3-10-10
今回は業務サポート部の守田さんにお話を伺いました。
*GICが岐阜商工会議所の発行する「商工月報 10月号」に寄稿させていただくのに合わせ、事例紹介にご協力をいただきました。そのインタビューの様子をご紹介します。
‟会社のリアル”を伝える機会として5日間の実習に再挑戦
10年くらい前から、とりあえずやってみようということで5日間の受け入れなどを行っていました。「女性監督に会えるインターン」といったタイトルでやったこともありましたね。東京での話を聞く中で「1dayというのも良いんじゃないか」ということで、5年前くらいから力を入れて取り組むようになりました。学生が自己分析を深められるような内容で今も行っていて、学部の限定等もせず、様々な学生を受け入れています。
その中から採用選考に進んでもらえる学生さんも出てくるわけですが、入社にあたって何が足りないかと考えた時に「会社の理解はできてきたけれど、もっとリアルのところを知りたいです」と言われるようになりました。今から2年前といえば、ちょうどインターンシップについて三省合意が変更されたタイミングで、タイプ3として「インターンシップ=5日間」といった新たなルールも決められました。それに後押しされる形で5日間の受入枠を設けよう、ということになりました。
三省(=文部科学省、厚生労働省、経済産業省)が平成9年(1997年)に発表した「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」のことで、インターンシップに関する基本的な認識や推進方策をまとめたもの。その後は何度か改正されますが、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」((一社)日本経済団体連合会のトップや大学のトップ等で構成された会合)がインターンシップについても審議し、2021年度報告書で記載した内容を踏まえて、令和4年(2022年)に「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取り組みの推進に当たっての基本的考え方」として改訂されました。
これにより、従来のインターンシップは「オープン・カンパニー」などの4タイプに分類されました。その中で「インターンシップ」という名称が使えるのはあくまで5日間以上の実習で、現場での就業体験が実習日程の半分以上必要、といったルールが決められ、さらに「インターンシップ」であれば、その後の採用選考においても、実習で得られた成果を参考にしても良いということになりました。
協議会の調査結果や、ナビサイトのアンケート等を見ていても、5日間のプログラムを実施している企業は、割合として少ないんですよね。ルール変更でナビサイトでは「インターンシップ」の掲載基準もかなり厳しくなりましたので、そこに敢えて乗ったような感じですね。そこでも差別化を図れれば、と。レッドオーシャン(競争の激しい分野や市場)よりもブルーオーシャン(参入している競合が少ない、未開拓な分野や市場)を目指して、ということですね。
また、昨今のルール変更では「インターンシップ」と名乗る条件がかなり厳しくなりましたので、そう簡単にクリアできず「面倒くさい」となってしまう企業も多いのではないかと思います。
インターンシップを新しく始めるというのは、仕事が0のところから湧くような感じになりますから、立ち上げは本当に大変ですよね。
やはり人事・総務だけが動いてできるものではないので、全社的にはトップダウン、社長から役員に対して「会社として取り組みますよ」、「やらないと採用にはつながらないんだよ」ということを伝えてもらいました。それで社内での理解が進んだのがありがたかったですね。その順番を間違えないようにする、というのは大事だと思います。
インターンシップもTikTokも採用も、実は‟社員のため”でもある
「リアルを見たい」という声に対しては、少なくとも現場見学は必要になりますしね。
それでも、「なぜやらないといけないのか」という声は出てくるものなので、「会社が人を雇えないと、社員の数が足りなくて大きな案件に手を挙げられなくなりますよね。大きな案件を受注できなければ、会社として売上げが上がらないし、そうしたらきっとボーナスは出ませんよね、下手したら給与にも影響してしまいますよね」という循環、社員にとってのメリットについて説明するようにしています。会社としてTikTokもやっているのですが、その理由や意味も同じことなんですよね。
当社は現在創業76年目で、100周年を目指しているところです。そのためにも確実に採用活動を行っていく必要があるのですが、“会社として”というだけではなくて、それが「ひいては自分の身にも影響することなんだ」という点を説明すると、必要な業務なんだと理解してもらえますね。
やはり調整は大変ですね。
ですが、大手と比べて選んでもらうには、と考えると大事だと思っています。
ただ、令和6年度はかなりスムーズでした。というのも、それぞれの担当部署で、あらかじめ受入内容を考えてもらえたからです。人事主導ではなく、全体会議の場で各部の責任者クラスから「○○さんには□□の現場で△△という体験をしてもらいます」等と具体的な情報共有をしてもらえたりしました。昨年までの取り組みが各部でもノウハウとして蓄積されつつあるのが頼もしいですね。
当社は総合建設業ですから、住宅建築の現場、JV(ジョイント・ベンチャー/複数の企業が協力して事業を行う共同企業体)で公共施設等を建設する現場、もちろん設計もあれば、営業、不動産部門もありますから、社内の業務は多岐にわたります。その強みを生かして、例えば学生さんが「営業の仕事を知りたいけれど不動産にも興味があって」と言われるなら「営業3日間+不動産2日間」、施工管理に興味があるということであれば、その業務で5日間組むケースもあります。5日間で5つの部門を経験することも可能です。
募集にあたってもいろいろな工夫をされているのでしょうか?
5月後半、協議会の「インターンシップ合同説明会」あたりを皮切りに様々な説明会に参加するのですが、大きな会場では説明時間を15分程度にして、ターム数を増やすようにしたりしていますね。あとは、“無難なブース装飾”をしても学生さんにとっては「壁」に等しいと思っていて。目立つ工夫はしています。説明の仕方も工夫していますね。
受入人数については、オーダーメイドだと多くは無理ですよね。
学生さんに無理なく5日間参加してもらうためには、夏休み期間の実施が必須だろうと思っています。とはいえ、あまり多くの学生さんに提供するのも難しく、現在は5名程度としています。
今年もかなりエントリーはしていただいたのですが、そこから、当社や業界への気持ちが強い方で、当社の社風に合いそうな方を選考しています。そうすることで、実習に来てもらった際に質問が自然と出たりして学生さんも会社になじみやすいですし、学生さん同士で集まってもらう場面でも、個々の意識レベルが割とそろってくるので、自然とコミュニティができやすいですね。うちの会社に興味がない学生さんが実際に来てしまうと、「なんでうちに来たの?」とお互いがつらい思いをすることにもなりますので・・・。
5日間のインターンシップを実施されて、守田さんご自身としては、どのようなメリットを感じていますか。
採用活動というのは、本来は経営者がやるもので、それを代わりにやらせてもらっているんですよね。
目標とする内定人数もあるわけですが、そこに向けて、インターンシップに参加してくださった学生さんが、そのうちの数名でも「採用見込み」の枠に上がってくれることが、個人的には本当にありがたいですね。「入社したいと思ってくれている学生さんがいる」、「見込みが“0”ではない」という状況だと、人事としては心の余裕が生まれます。それがとにかく大きいです。
インターンシップに関わる→社員が気持ちが変わる→今よりもっと良い循環に
間違いなくそうですね。
それに、各部でインターンシップに協力してもらうようになったことで、「○○さんは実習中も□□の部分がとても良かった。できればぜひうちに入社してほしい」といった具体的な評価も上がってくるようになりました。そして、社員もワクワクしながら採用活動を心待ちにしてくれるようになりました。そういう評価がある上で入社してもらえると、各部でもしっかり面倒を見てもらえると思います。つまりは、何より学生さんの将来のためになる、というのが一番のメリットだと思っています。
もちろん、そうして入社してくださった方も、数年して業界のことがよく分かってくると、他社と給与などで比較して悩むケースも出てくると思います。そんな時に、上司が以前から目をかけてくれている人であれば、熱心に話を聞いて引き留めて、という流れになると思うんです。待遇以外の部分での働きやすさや、周囲の社員との関係性が、「やっぱりここで頑張ろう」と思える理由になってくれれば良いなと思っています。そして、さらには「自分も若い時にいろいろ周りに助けてもらったから」と次の世代に優しく対応してくれれば、もっともっと良い循環ができていくと思います。
「学生のためになる」ことを考えていただけているのは、協議会として本当にありがたいです。
「学生にしてあげられることを大事にしよう」「学生にとって何が良いのか」ということは、ちょうど昨日も上司から言われましたね。会社として、そこを一番大切にしています。
1dayの内容も「敷居は低くしながらもレベルは高いものを」という考えがあるので、「昨年度よりも会場費を抑えた分で、今利用している適性検査のランクを上げて、学生には交通費を出してあげられるように…」といったように、コストは減らしつつも、学生さんがより学べる内容にするにはどうしたら良いか検討したりして、毎年見直しを続けています。
つい最近も、「そのプログラムを入れることで、学生さんが充実していたね、楽しかったねと帰れるのなら、少し時間が延びるとしても入れるべきじゃない?」といったことを相談していましたね。会社説明会や1dayのオープン・カンパニーも短い時間のものが増えてきていますけれども、短くすることだけが大事じゃないよね、と話したりしています。
学生さんを受け入れる中で、ポジティブな意見が出ることもあるし、ネガティブな感想が出ることもあります。それは社内にとって、トップも含めて良い意味での緊張感につながりますし、社員のレベルを高める上でも役に立っていると思います。
ちなみに学生さんがトップの方にお会いできる機会もあるのでしょうか?
ありますよ。時には、東京や東北などに出張している時でも、会社説明会のために戻ってきてもらえたりするので、人事としてはありがたいですね。
最後になりましたが、これからインターンシップを始めたいと思っている企業・団体の方へのメッセージもぜひお願いします。
学生さんもスケジュールを詰め込んで多忙な夏休みの中、貴重な時間を割いて参加してくれます。その1日1日を大切に、有意義なものにしてあげられるようにする、ということが大事だと思っています。
そのためにはまず、自社の強みがどんなことなのかをよく考えることと、活動の土台となる採用への考え方を固めること。その上で、自社の強みをしっかり発揮できるプログラムを考えていくことだと思います。